高市早苗首相は2日、自身の名前を模した暗号資産「SANAE TOKEN」への関与を完全に否定する異例の声明を発表した。政府の最高責任者が個別のミームコインについて言及する事態となり、暗号資産業界では政治家の名称を利用したトークン発行の是非をめぐる議論が活発化している。
高市首相は3月2日夜、自身の公式Xアカウントを通じて声明を発表し、「SANAE TOKENという仮想通貨が発行され、一定の取引が行われていると伺いました。名前のせいか、色々な誤解があるようですが、このトークンについては、私は全く存じ上げませんし、私の事務所側も、当該トークンがどのようなものなのかについて知らされておりません」と述べた。
さらに首相は「本件について我々が何らかの承認を与えさせて頂いたこともございません。国民の皆様が、誤認されることのないよう、申し上げることと致しました」と続け、トークンに対する一切の関与を明確に否定した。首相の事務所も同様の見解を示し、承認を与えた事実はないと明言している。
SANAE TOKENは2月25日、連続起業家の溝口勇児氏が手がけるYouTube番組「NoBorder」の公式アカウントを通じて発行が発表された。プロジェクトを推進するためのインセンティブトークンとして位置づけられたが、高市首相の名前を冠していることから、政府関係者の公認を得たプロジェクトであるかのような誤認を招く恐れが指摘されていた。
同トークンの発行が明らかになって以降、暗号資産業界の有識者からは違法性や倫理性を問う声が相次いでいた。特に問題視されているのは、現職首相の名前を無断で使用している点だ。公式サイトでは高市首相を想起させる画像が使用されており、誤認誘導のリスクがあると指摘されている。
さらに、トークンの設計そのものにも疑問の声が上がっている。SANAE TOKENのリザーブ(運営確保分)が65%と極めて高い比率に設定されており、一部の専門家からはポンジスキーム的な構造ではないかとの批判も出ている。一般的に健全とされるトークンのリザーブ率は20〜30%程度であり、65%という数値は市場で流通する供給量が極めて限定的であることを意味する。
プロジェクト発表時には実業家の堀江貴文氏が「高市総理にも届くといいですね」とコメントしていたが、公認を得たという発言はなかった。しかし、こうした著名人の発言も、誤認を助長する要因となった可能性がある。
今回の騒動は、政治家や公人の名前を利用した暗号資産発行の倫理的・法的課題を改めて浮き彫りにした。米国では2025年にトランプ米大統領が自身の名を冠したミームコイン「TRUMP」を発行し話題を集めたが、本人が直接関与する形での発行であった。
一方、SANAE TOKENのケースでは、本人の承諾を得ずに名前が使用されており、性質が大きく異なる。名称の類似性から生じる誤認は、投資家保護の観点からも看過できない問題だ。特に暗号資産市場では情報の非対称性が大きく、著名人や政治家の関与があるかのような誤解が投資判断を歪める可能性がある。
インターネット上では「首相の名前を勝手に使うのは問題」「投資家を誤認させる手法は許されない」といった批判的な声が多数寄せられている。高市首相自らが声明を出すに至った背景には、こうした批判の高まりがあったとみられる。
暗号資産業界では近年、ミームコインの発行が相次いでいるが、今回の事例は著名人の名称利用に関する新たなガイドラインの必要性を示唆している。業界の健全な発展のためには、投資家保護と透明性の確保が不可欠であり、今後同様のケースが発生しないよう、業界全体での自主規制や法整備の議論が求められる。


