日本銀行が、民間銀行が中央銀行に預ける当座預金の一部をブロックチェーン(分散型台帳)上でトークン化する構想を本格的に動かし始めた。日本経済新聞が2日、報じた。実現すれば、平日日中に限られていた大口企業間決済が24時間365日可能になるほか、国境をまたいだ即時送金やコスト削減にもつながる可能性がある。日銀は民間金融機関との実証実験を通じてニーズや技術上の課題を探る方針だ。
現在、銀行間の資金移動は日銀ネットを介し、各銀行の日銀当座預金間で振り替えることで完結する。しかし日銀ネットは平日日中のみ稼働しており、土日・祝日・夜間には取引できないという構造的な制約がある。
今回の構想は、当座預金口座の残高を1円=1トークンの単位でブロックチェーン上にデジタル変換するものだ。条件が満たされると自動的に決済手続きが完了し、振り替えと引き渡しが同時に処理される。これにより24時間365日の取引が技術的に可能となる。手数料などのコスト削減も期待されるほか、3メガバンクが発行するステーブルコインとの連携も容易になる可能性がある。日銀はすでに民間金融機関との実証実験で模擬的に当座預金をトークン化する試みを進めようとしており、欧州中央銀行(ECB)もブロックチェーン上の取引安全性などを検証する同様の実験に取り組んでいる。
トークン化の効果は国内決済にとどまらない。日銀や国内大手銀行は、国際決済銀行(BIS)や米欧の中央銀行・主要商業銀行が参加する国際決済の実証実験「アゴラプロジェクト」に参加している。国際送金は複数の中継機関が関与するため、決済完了までに時間とコストがかかることが長年の課題だった。
中央銀行当座預金のトークン化が進めば、こうした多層構造を簡略化し、国をまたいだ即時送金や手数料削減を後押しできる可能性がある。
今回の構想は、個人の日常決済を想定した「デジタル円(一般利用型CBDC)」とは根本的に異なる。デジタル円は個人がスマートフォンのアプリを通じて決済・送金に利用するもので、預金との交換は常時可能だが利息は付かない。急激な預金流出を防ぐため、1人あたり数十万円の保有上限も想定されている。
これに対し当座預金のトークン化は、金融機関同士の大口取引(ホールセール型)を対象とする。両者は技術的に類似しているが、対象利用者・取引規模・目的がまったく異なる。
中銀デジタル通貨をめぐる国際情勢は急速に変化している。トランプ米政権はCBDCの発行を禁止し、ステーブルコインの活用を推進する方針を明確にした。一方でECBは2029年をめどにデジタルユーロを発行する方向で検討を進めている。中国はデジタル人民元を中銀発行のデジタル「現金」から民間銀行の「預金負債」へと再定義し、金利を付与できる形に転換した。結果としてCBDCの定義からは外れることになったが、日銀関係者は「アリペイなどの民間決済が普及した結果、リテール重視の路線を再考しているのだろう」と分析する。
日銀が推進する当座預金のトークン化構想は、制度・法令対応、大規模な資金移動に伴う銀行経営リスク、システム障害やサイバー攻撃への対策など、解決すべき課題が山積している。急変する海外情勢を視野に入れながら、日銀は慎重に今後の展開を模索する。


