ニューヨーク・タイムズは4月8日、1年にわたる調査報道を発表し、ブロックストリームのアダム・バックCEO(55歳)が、ビットコイン創設者サトシ・ナカモトである最有力候補だと主張した。根拠は執筆スタイル分析と過去34000人のメーリングリスト利用者に関するアーカイブ調査によるもの。
英国出身の暗号学者で、ビットコインのホワイトペーパーでも引用されているハッシュキャッシュのプルーフ・オブ・ワーク方式を考案したバック氏は、この主張を否定し、証拠は偶然の一致に過ぎないと説明した。
セラノス事件の調査で知られる記者ジョン・キャリールー氏は、サトシによる既知の文章と、1992年から2008年に活動していた3つの暗号学メーリングリストに投稿された数千件とを1年以上かけて分析した。
AIプロジェクト担当編集者ディラン・フリードマン氏の協力のもと、同チームはサイファーパンクス、クリプトグラフィー、ハッシュキャッシュ各リストでデジタルマネーについて議論した620人、計13万4308件の投稿データベースを構築した。
調査では3つの異なる文章分析手法を適用した。そのすべてが、バック氏の筆致がサトシの執筆スタイルに最も近いとの結果を出した。
1つの分析は文法的な癖に着目した。調査チームはサトシ文書中に325件の独自のハイフン誤用を特定し、バック氏にもそのうち67件が認められた。2番目に近い候補者でも38件だった。
また、絞り込みプロセスでは、英式スペリング、文間2スペース、特定のハイフン使用パターン、「e-mail」「email」など用語の使い分けなどの特性でフィルタし、620人から候補は1人に絞られた。その人物がバック氏だった。
調査では、バック氏が1997年から1999年のサイファーパンクスリストで、ビットコインの中核機能をほぼすべて提案していた事実が指摘された。これはサトシによるホワイトペーパー発表の10年前にあたる。
当時の投稿では、送受信者双方のプライバシー確保、内在する希少性、信用不要、公開検証型プロトコルといった分散型電子マネーの仕組みを提案していた。
さらに、同氏は自身のハッシュキャッシュ案とウェイ・ダイ氏のb-money構想を組み合わせることも提案しており、これはサトシがビットコイン構築時に実際に採用した仕組みと一致している。
行動パターンも注目された。バック氏は10年以上にわたり、各メーリングリスト上で電子現金に関する議論に継続的に参加していた。
しかし2008年末、サトシがビットコイン発表を行った際には、バック氏が沈黙した。同氏が公にビットコインへ言及したのは2011年6月であり、サトシが消息を絶ってから6週間後だった。
その後、同氏はポッドキャストで「2008年のサトシのホワイトペーパー討議に参加した」と主張したが、NYTはメーリングリストの記録にその証拠を見つけていない。
キャリールー記者は2026年1月、エルサルバドルで開催されたビットコインの会議でバック氏に直接対面。2時間に及ぶ対話の中で、バック氏は繰り返しサトシ本人説を否定した。
しかし記者は、本人の口調に興味深い変化を感じ取った。キャリールー氏が「サトシは『文章よりコードが得意』と述べている」と言及した際、バック氏は、あたかも自分で書いたかのように反応した。
X(旧Twitter)でもバック氏は4月8日に別の反論を投稿。過去のサイファーパンクスリストで自身の投稿が膨大な量に上るため、電子マネー関連の語句検索に統計的に引っかかりやすい=確証バイアスだと主張した。
また、サトシの匿名性がビットコインにとって有益であり、新たな資産クラスとしての位置づけに役立っていると述べた。
タイミングも複雑な事情を孕む。バック氏は現在、3万BTC超を保有するビットコイン・スタンダード・トレジャリー・カンパニー(BSTR)のCEOである。
同社は現在、カンター・エクイティ・パートナーズとのSPAC合併による株式上場について、株主承認待ちとなっている。
米証券法上、本人がサトシと確定し、推定110万BTC超(780億ドル超)の資産にアクセスできる場合、開示義務のある重要情報となる可能性がある。
2022年にQアノンの著者特定に協力したスタイロメトリ(文体統計)専門家フロリアン・カフィエロ氏は、サトシのホワイトペーパーと最も一致度が高い人物として、調査の一部でバック氏を特定した。
しかし同氏は、この結果を決定的ではないとし、ハル・フィニー氏が僅差の2位だったと評価した。
サトシとして知られるウォレットからの暗号署名が提示されていないため、正体に関する疑問は未解決のまま。